オール・アバウト・テニス

主に海外(特にアメリカ)で取り上げられているテニスに関する興味深いニュースをピックアップしてお届けします。

UTRとカレッジ(大学)テニス その3

(UTRについてに続き)

”UTRのレーティングシステムは、年齢、地域、性別、経済の差を超えて、すべてのテニスプレーヤーのレベルを、統一された共通の基準で判断します。アルゴリズムをベースにしたこのシステムで、プレーヤーのレベルを認知したり、上達の過程をチェックしたりすることが可能になりましした。UTRのシステムは、現在、200ヵ国以上から700,000人以上のテニスプレーヤーの700万以上の試合結果から構成されています。

世界のテニス人口は、1億に及ぶとされています。我々は、まだ始まったばかり。より多くのデータを収集して、このシステムがもっと発展してくように、支援のほうよろしくお願いします。” (UTRウェブサイトより)

 

アメリカでテニスをしていると、UTRを参考にすることが多くあります。以下、UTRの感想や気づいたことなどを、あくまでも主観的な視点から書いてみました。

UTRの感想

UTRはテニスプレーヤーのレベルを判断する方法としては、とても信頼できるシステムだと思います。その数値はプレーヤーのレベルをかなり正確に表していると感じるからです。例えば現在では、USTAのジュニアトーナメントでのシードを、UTRを使って決めることも少なくないのですが、これが、また、よく当たるのです。シードの順位がそのまま大会の結果になったということも結構多いように思います。逆に大きく狂うということはとても少ない。従来のUSTAのナショナルランキングでシードを決めてしまうと、大きな全国大会を数多くこなしているプレーヤーのほうが有利になるし、また、激戦区とそうでない地区の地域差も大きいので(その差がランキングに反映する)、あまり正確なシーディングにはならないことが多いのです。でも、UTRは、そのような格差を徹底的に排除することに取り組んでいて、実際、プレーヤーの実力をかなり忠実に表していると実感しています。

 UTRのレーティングについて気づいたこと

そんな風にかなり正確なUTRですが、小さな点で気になるところもあります。

まず、ヒストリー(試合歴)の少ない選手の数値には、誤差が出てしまう場合があります。当然ですが、数値の正確さは、試合量(データの量)に比例するので、ヒストリーの少ないプレーヤーのUTRには、少し注意が必要でしょう。

次にこれは、本当に主観なのですが、このシステムは、ジュニアに限っていうと、年齢が上がるにつれてレーディングが少し厳しくなっているような気がします。例えば、UTR(の数値)が全く同じである16歳のジュニアと10歳のジュニアが対決すると、16歳のほうが多少強い気がします。確かに、16歳のほうが知恵があるし、体力もあるし、たとえ、テニスのスキルレベル(=UTR の数値)が同じでも、それ以外のことで試合に勝つことができるのかもしれないですが。しかし、勝敗に関して言えば、UTRが同じでも年齢が(特に大きく)離れている場合は年上が勝つことが多いように見えます。このシステムでは、歳は関係ないはずなので、UTRが同じならば、彼らのレベルは同程度で、勝敗も五分五分であるべきなのですが。(スキルと強さは必ずしも同じではありませんが、UTRではスキル=強さという前提なので、その辺はまたややこしいですね。)

また、自分のレベルより低めのトーナメントばかりに出て、格下とばかりを戦っているプレ-ヤ-は、実際よりUTRが低くなっている場合があるようです。UTRの判断基準の一つは、対戦相手のレベルです。数値を上げる一番の方法は、自分よりUTRが高い人と試合をして勝つこと、または、ある程度のゲーム数を取ること。しかし、いつも自分よりUTRの低い人ばかりと戦っていると、勝って当然なので、勝ちまくっても、UTRが上がる要素がないんです。いつも自分の実際の年齢グループを守って、トーナメントで優勝ばかりしているプレーヤーのUTRには少し注意が必要かもしれません。

またその逆で、いつも自分のレベルよりもかなり上のトーナメントにばかり出ていて、負け続けているプレーヤーのUTRも正しく計ることは難しいでしょう。

 UTRにまつわる話

このシステム自体は本当によく出来ていると思います。しかし、ジュニアプレーヤーや周りの大人がUTRを気にしすぎることで多少なりともジュニアプレーヤーの育成の過程でマイナスになってしまうこともあると思います。

先ほども言いましたが、UTRの数値を上げる一番の方法は、UTRが自分より高い人と対戦して勝つことです。格上の選手に勝つことは容易ではないかもしれせんが、ゲームの獲得数も考慮されるので、勝たなくても、ある程度のゲーム数を取ることでもUTRは上がります。なので、格上との試合することで、UTRが上がる可能性は大いにありますが、逆に負けてもUTRが下がるリスクはほとんどありません。しかし、格下が相手の場合、万一負けてしまった場合はUTRは下がります。ただ、格下相手に勝ったとしても、それが当然なのでUTRが上がる可能性はほとんどありません。ということでUTRを気にするジュニアたちは、UTRが下がるリスクを減らすため、自分より格下が多く集まるトーナメントを避けるようになってしまいました。本来、彼らが参加すれば優勝を狙えるトーナメント。たとえ、多少の格下相手でも、NO1 シードとしてのプレッシャーを感じながら、トーナメントで勝ち上がり優勝する経験は、いろいろな勝ち方・負け方を経験すべきである発展途中のジュニアにとって、とても貴重な経験だと思うので、これはとても残念な傾向だと思います。

あるナショナルレベルのプレーヤーは、大きな大会でかなりの格下相手と試合をしているときに限って、0-3になったところで、これまで何度も試合を棄権しています。本人や親御さんに誰も直接理由を聞いたわけではないので、真相は不明ですが、始めの3ゲームまでに棄権した場合、その試合はUTRのヒストリーには載らないことになっています。そのために、格下相手になんとなく負けそうな気がしたので、UTRのことを気にして3ゲームの終わりの時点で棄権したのではないか、と多くの人は思っています。

また、ある親御さんは、中学生の息子さんのUTRのヒストリーに身に覚えのない試合が載っていて、驚いて調べてみると。。。その日は、息子さんはいつものように、アカデミーの練習に行っていたのですが、その練習に、近所のハイスクールプレーヤーがたまたま参加していて、そのハイスクールプレーヤーと息子さんが練習中に1セットの練習試合をしたそうです。(結果は息子さんが負けてしまったとのこと。)その練習試合の結果をハイスクールプレーヤーが高校のテニス部の監督に報告し、その監督がそれを高校の試合として、UTRに報告して、それが正式にヒストリーとして載ってしまったということだったそうです。そのハイスクールプレーヤーのUTRは、息子さんのUTRよりかなり低かったということで、やはりUTRを上げたるために報告したのでしょう。(結局アカデミーに連絡をして、その結果を取り下げてもらったようですが。)

そんなわけで、UTRを気にしすぎるあまり、行き過ぎた行為で、なんとか、UTRを下げないように、または、なんとか、UTRを上げるようにしようとするジュニアも出てきています。それほど、UTRが、現在のアメリカのジュニアプレーヤーにとって重要なものとなってきたということでしょう。

一般的には、このUTRのシステムは本当に画期的で素晴らしいと多くのテニス関係者やプレーヤーが感じています。今後、もっともっと多くのデータを取り入れて、すこしでも多くのテニスプレーヤーの名前がUTRに載ることを楽しみにしています。まだまだ、始まったばかり。可能性は無限大ですね。