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18歳新星、ビアンカ・アンドリースクの才能

熱戦が繰り広げられた2019年、インディアンウェルズ。ドミニク・ティエムとビアンカ・アンドリースクという予想外の新しいチャンピオンを生んで、幕を閉じました。どんなテニス通でも、この二人が優勝すると予想していた人は、なかなか、いなかったのではないでしょうか。実績のあるティエムはともかく、アンドリースクは、これまで名前さえ知らなかっと言う人も少なくないでしょう。若干18歳の彼女のゲームの素晴らしさは、何なのか。そして、彼女の才能は本物なのか。

今年のインディアンウェルズに関しての最後の記事になる今回は、今大会、最も注目を集めたビアンカ・アンドリースクについてのSteve Tignorさん記事をtennis.comから紹介したいと思います。

インディアンウェルズ・チャンピオンのビアンカ・アンドリースクには、誰も教えることができない才能がある

(意訳)

「たとえ、どんなスコアであっても、誰でも、カンバックするチャンスはあると思います。5-0でも、3-0でも、6-0でも。何事も不可能ではないと。」いまだ、興奮状態であり、同時に疲れ切ってもいるビアンカ・アンドリースクは、ESPN2のメリー・ジョー・フェルナンデスにそう語った。「そして、今日、私はそれを証明できたと思います。」

このインディアンウェルズでの過去10日間の、彼女の体力の限界を超えた努力を見ていると、この新たなカナダのスーパースターなら、たとえ、6-0で負けていても、強い意志で本当にカンバックできるのではないかという気にさせる。

2018年のBNPパリバオープンでは、20歳の大坂なおみが、シード無しから勝ち上がり、優勝したが、アンドリースクの今年の活躍はそれを上回ったといえるだろう。彼女は18歳で、ワイルドカードを受けてこの大会に出場した。今シーズンの始めの彼女のランキングは、トップ150位にも入っていなかった。

しかし、決勝戦で、アンゲリク・ケルパーを、ドラマに満ちた、素晴らしいプレーと、不屈の精神で、6-4、3-6、6-4で下したとき、彼女は、WTAプレミア・マンダトリーでのタイトルと、トップ30位以内の世界ランキングをものにした。

「今日の試合は、今までで最もタフな試合の一つでした。」とアンドリースクは試合後に語った。そしてその試合で、「私の意志の強さを証明できたと思う。」とも付け加えた。

この大会中、アンドリースクのゲームについて評判となったのは、彼女のテニスに対してのIQの高さ。そして、様々なバラエティーでボールを打つことができる能力の高さ。そして、それを実際に試合で惜しみなく使おうとする姿勢。決勝のケルパー戦では、彼女は、始めからそういうプレーをした。試合の序盤、アンドリースクはフォアハンドのスライスを多く使った。ムーンボールを使いケルパーを後方へと追いやり、返ってきたボールが甘くなったところをたたいた。フォアハンドをクロスコートに打ち、次のインサイドアウトで決められるようにセットアップした。アグレッシブなセカンドサーブを入れ意気を高めた。ドロップショットをする準備はいつも出来ていた。

そのため、ケルパーは、スライスには、深く腰を落として低姿勢で対応しなければならなかったし、トップスピンの高く跳ね上がるボールは、肩を超える高い打点で打たなければならなかった。彼女のパワフルなドライブショットには反射神経で対応して、ドロップショットは何度も追った。そんな状況に追い打ちをかけるように、アンドリースクは3度ほど、ポイントが終了後にケルパー側のコートに向かって、ボールを力まかせに打った。そんなアンドリースクのプレーにイライラしていたケルパーだったが、第2セットが始まると、ボールをフラットでより深く打ち始め、アンドリースクの挑戦に答えた。アンドリースクから時間を奪い、彼女のクモの巣のような複雑なプレーを封じ込めた。ケルパーに3セット目の2-2の時に2度ブレークチャンスがあった時は、アンドリースクはとうとう万策に尽きたように見えた。そして、同時に彼女の体力も尽きたように見えた。 

しかし、この時、いよいよ、我々が、アンドリースクのX-ファクター(成功するのに必要な特別な才能、決め手となる要素)を見ることができた。アンドリースクのX-ファクターは2つあった。一つはテニスの能力、もう一つはメンタル。これらのX-ファクターは、どちらも誰かが彼女に教えたことではない。

「すごく疲れた。」次のチェンジオーバーで、彼女はコーチである、Sylvain Bruneauに泣き言をいった。そして、その後「どうしても勝ちたい!」と続けた。

この2つの言葉が、まだ、18歳の彼女が、他のもっと経験のあるプレーヤーにない「何か」を持っていることを示している。目の前の困難を言葉で表現し、それに悩みながらも、その苦境をバネにして自分をインスパイアすることができる力。

トーナメントを通して、アンドリースクは不満や怒りを言葉にすることはあった。しかし、彼女は、落ち込んだり、物事を急かしたり、ネガティブになったり、試合を諦めたりするようなことは決してなかった。彼女は、勝負で起こるドラマから、よりパワーを得ているように見えた。それは、素晴らしいアスリート達なら、みんな持ち合わせている資質だ。準決勝のエリナ・スビトリナ戦も、決勝戦とよく似た接戦であったが、その試合でアンドリースクは、最後のあたりで、脚がつっているようだった。しかし、そのせいで、ペースが落ちることはなく、逆に、その状況が彼女のよりアグレッシブなプレーを引き出した。

「脚がつったのは、私が全てのことにすごくストレスを感じていたからだと思う。だけど、過去の下位ツアーのイベントやジュニアでこんな経験は何度もしてきた。だから、こんな時どうすればいいのか分かっていた。」と彼女は言った。

勝戦のケルパーとの試合の最後の3ゲームでも同様なことが起こった。そして、もちろん、彼女はこの時もどうすればいいのか知っていた。この時、彼女は、これまでのように、ケルパーと長いラリーをすることを止め、トリガーを引くのを早めて、アグレッシブにプレーした。そして、それが、再び上手くいったのだ。とくに彼女の放ったフォアハンドはコーナーに突き刺さった。彼女の、この試合のフォアハンドウィナーの総数は37。3セット目だけで、19のウィナーを奪った。ケルパーも、コートで様々にことができる。しかし、彼女は、アンドリースクのようにウィナーを打つことはできない。

これが、アンドリースクについて我々が学んだことのもう一つのことであった。彼女は、コート上でよく考え、また、バラエティーに富んだプレーをすることができる。しかし、それは、アンドリースクのポイントを終えることのできるスピンとパワーの後ろ盾があって、初めて、意味深いものとなる。アンドリースクは、いろいろなショットを織り交ぜながら、ケルパーにリズムを与えないようなプレーで試合をスタートさせたが、最後は、パワーという武器で彼女を破壊した。

「言葉にならないわ」スビトリナ戦で勝利したアンドリースクは言った。しかし、それは長くは続かなかった。優勝セレモニーでは、心の底から湧き出るような情熱で、彼女はいつものように完璧なスピーチをした。

彼女のバラエティーに富んだゲームと、年齢を感じさせないしっかりとした態度。 アンドリースクのテニスは、理にまったくかなっていない。全てのことに反しているように見える。しかし、彼女は、それを全て自然にやってのける。それは誰かに教えられたものではなく、彼女が天から与えられた才能なのだ。

 

英語では、バラエティー豊かな、一筋縄ではいかないようなプレーヤーのことを「クラフティ」なプレーヤーと呼びます。例えば、昨年引退したアグニエシュカ・ラドワンスカはこのタイプのプレーヤー。

この対極にいるのが、アグレッシブにパワーで押すタイプのプレーヤー。マリア・シャラポワは間違いなくこのタイプ。

しかし、この相異なるタイプのプレーが両方できる女子プレーヤーというのはなかなかいません。

アグニエシュカ・ラドワンスカはクラフティだがパワーが絶対的に欠ける。マリア・シャラポワは、パワーはすごいが、他にできることはほとんどない。通常多くの女子テニスプレーヤーは自分の長所を利かした、一辺倒なプレーになってしまいがちです。

普通に考えて、1つのことより、2つのことができるほうがいいに決まっている。それは、みんな分かっている。ただ、それを実行することは、多くの人が容易にできることではないのです。

ビアンカ・アンドリースクはそれが、自然に両方できてしまう。それが、彼女の才能が天才的と言われる所以でしょう。

そして、自分よりも経験豊かなトッププレイーヤーに、大舞台で、競り勝ったメンタルも、天性のものを感じます。

メンタルがすばらしい、クラフティなパワープレーヤ-、ビアンカ・アンドリースクが今後どう成長していくか。テニスファンにはまた楽しみが増えました。

 

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 決勝戦のハイライト