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ショッキングな裏口入学スキャンダル その2 すべてはここから始まった

今、アメリカで大きな話題になっている裏口入学スキャンダルについて、先日このブログでも取り上げましたが、将来ハリウッド映画になること間違いなしの、このセンセーショナルで、スケールの大きなスキャンダルには、本当に多くの人が衝撃を受けました。

この事件を始めて耳にしたとき、その大胆な内容に私も大変驚きました。そして、事件を学ぶにつれて、疑問に思ったのは、FBIはどうやってこの事件を把握したのかということでした。それでは、今回はこの事件がどのように暴かれたかという点からこの事件を見ていきたいと思います。

 

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Morrie Tobin latimes.comより

 

この事件が世に出るきっかけとなったキーパーソンは、Morrie Tobinです。

ロサンジェルスの高級住宅街の豪邸に妻と子供達と住んでいる55歳の裕福なビジネスマンであるTobinは、”ある目的”を達成するために、昨年の4月にボストンへ向かいました。

実は、FBIは、株に関わる組織的な詐欺集団の主犯格としてTobinを調べていましたが、彼がボストンに向かった数週間前にFBIはついにTobinの豪邸に令状をもって現れ、家宅捜索を行い、彼が行った悪事の証拠を多く押さえました。

Tobinがボストンに訪れた理由は、ただ一つ、検事と会って、(刑期軽減のための)"慈悲を乞う”ためです。検事は、Tobinにこう言います。”あなたが、投資家相手に行った詐欺行為を洗いざらい全て正直に話せば、罪を少し軽くすることができるかもしれない”と。ちなみに、これは、犯罪に関わった人が一般的にオファーされる通常のリーニエンシー(慈悲)の取引でした。

ところが、なんとか刑期を軽くしたくて必死のTobinは、彼がもっている”ある情報”に、検事が興味を持ち、さらに罪を軽減してくれることを期待して、自分の行った株に関する詐欺容疑とはまったく関係ない別の詐欺事件について検事に話し始めました。

 

マサチューセッツ州の連邦検事は、この”裏口入学事件”のことを初めて公表したときの会見でこう語っています。

「この事件に関して、最初に手がかりとなったのは、これとは、まったく関係のない別の事件で捜査していた人物のインタビューからでした。その人物が、この”活動”が起こっているかもしれないというヒントを我々にあたえたのです。」

この時のTobinの話から、イエ―ル大学のサッカーコーチがまず浮かび上がり、そして、そのコーチから、主犯のシンガーにたどりついたと検事は説明しました。

初めてTobinがこの話を検事にしてから1年弱。FBIはこの間、複雑に絡み合った糸をほどきながら、証拠を集めていきました。そして、ついに今年3月、50以上の逮捕者を出した裏口入学スキャンダル事件を公に発表するに至りました。(この事件はまだ、捜査中のことも多く、今後内容が拡大する可能性もあります。)

 
アメリカ史上最大の名門大学裏口入学事件の発覚

さて、Tobinは、この詐欺事件を検事に話した後、全面的に捜査に協力することとなります。この事件の全貌を暴くためにFBIの取った方法は、盗聴と隠し撮りの繰り返しでした。

Tobinの話によると、彼は、イエールの女子サッカーコーチである、Rudy Meredithに娘をイエールに入学させたるための賄賂として、6桁の金額(10万ドル以上、100万ドル以下)を毎月分割して払うと約束していて、この時点ですでに7~8回の支払いを済ませていたということでした。

そして、Tobinは、捜査に協力するために、Meredithに連絡をとり、金額についての最終的なつめの話し合いをするために、4月12日にボストンのホテルで会う約束をします。(事前にFBIはホテルの部屋に盗聴器と隠しカメラを仕掛けて、彼らの会合の一部始終を録音、撮影できるようにしておきました。)

この会合で、2人は賄賂の金額を450,000ドルで合意します。Tobinはその場でMeredithに現金で2000ドル渡し、残りのお金の送金先の銀行口座を聞き出します。そして、後日に4000ドルその口座に送ると約束して別れます。

この会合で、Meredithは主犯格のシンガーの名前を出したのですが、それは、FBIが初めて聞く名前でした。この時点では、シンガーはFBIの捜査線上に浮かんでおらず、FBIは、シンガーを中心とした犯罪組織に全く気がついていなかっということです。

この会合から3週間後、約束通り、FBIは、その口座に4000ドルを送金します。そして、そのとき、初めてFBIは、シンガーの声を聞くことになりました。Meredithとシンガーの電話での会話を盗聴することに成功したのです。このとき、シンガーはMeredithにもっと多くの有名大学のコーチを誘うようにと話します。シンガーは彼に、コーチに我々が行った実例を上げて、みんなやってることだからと言って勧誘しろと指示しました。

この盗聴後の一週間以内には、FBIは裁判所からシンガーの電話を盗聴する許可を得ます。これにより、シンガーの役割や、手口が次々と明らかになっていきました。

例えば、ニューヨークの有力弁護士のGordon Caplanとの会話では、$75,000で彼の娘のために大学進学適性試験の替え玉受験をアレンジできることを話し、シリコンバレーの有名な投資会社の設立者Bill McGlashanには、彼の息子をフットボールのキッカーに見せかけるようにすることを話しました。

そして、9月の終わりになり、FBIは、とうとうシンガーに会い、集めた証拠を突きつけます。最終的には罪を認めたシンガーは、今度は、自分の罪を軽くさせるため、FBIに協力することを約束します。

10月には、FBIは、シンガーをボストンに呼び、FBIエージェントが目の前で監視しながら録音している中で、シンガーに、クライアントである親、一人一人に電話をかけさせました。そして、その時、シンガーは、親にこういいました。

「(クライアントが賄賂のお金を送った、偽の)慈善団体にIRS(米国国税庁)の監査が入った。IRS(米国国税庁)があなたに話を聞くかもしれない。わたしが彼らに話したことと、あなたが彼らに話すことに相違があってはまずいので、口裏をあわせるために、我々がおこなったことをもう一度確認しいたい。」

このようにして、後でFBIが証拠として使えるように、シンガーは彼らが取り決めたことを詳しく親の口から話させました。

 

こんな感じで、この事件の逮捕者はどんどん増えていき、結果的には50人以上が逮捕される大事件と発展していったのです。

 

Tobinのその後

Tobinは、今年2月に証券詐欺での罪状を認めました。刑期は8年から10年が妥当とされましたが、Tobinのこの事件解明への協力の見返りとして、検事は、その範囲内で最短の刑期になるように裁判官にリクエストするということです。また、Tobinは、この裏口入学の詐欺事件にも関与していたものの、この件では逮捕されていません。

 

この事件について思うこと

この事件では、アメリカの特権階級である裕福層にありがちな醜い部分、傲慢で、自己中心的で、”sense of entitlement (自分達は特別でなにをやっても許される)”感がいっぱいの考え方が、露見しました。このようなアメリカ社会の醜い部分が、この事件の発覚によって変わるかと言えば、そんなことはありません。アメリカの金持ち優遇の歴史は長く、そのような仕組みは、もうアメリカの文化となってこの社会に定着しています。アメリカ社会で生存するためには、それを受け入れた上で、上手く世の中を渡っていくしかありません。ただ今回の事件を教訓にして、マイノリティーなどの、アメリカの弱者にとっても最も重要なサバイバルの手段である”教育”のシステムが今後、悪用されることのないように、しっかり改善されることを願っています。

 

*これは、主にLAタイムズの記事を参考に要点をかいつまんで記事にしました。この情報は、裁判所に提出された、供述書からのものです。