オール・アバウト・テニス

主に海外(特にアメリカ)で取り上げられているテニスに関する興味深いニュースをピックアップしてお届けします。

フェリックス・オーガー・アリアシム

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フェリックス・オーガー・アリアシム (sky sportsより)

土曜日のインディアン・ウェルズ。”Must see (見逃せない試合)”と言われていた、20歳で第10シード、ステファノス・チチパス 対 18歳フェリックス・オーガー・アリアシムのネクストジェン(=ネクストジェネレーション、将来有望な若手のこと)対決は、6-4、6-2で、フェリックスの勝利に終わりました。(*ラストネームが長いので“フェリックス”と書かせてもらいますね。)

実際の試合は、スコアほど差があったわけではなく、良いポイントもたくさんある見ごたえのある試合でした。ただ、フェリックスが重要なポイントにことごとく強かった。7つあったチチパスのブレークポイントを全て守り抜き、逆に自身の3つのブレークポイントは全てものにするという展開で、ストレートセットで勝利しました。

私がフェリックスのことを始めて耳にしたのは、2015年7月、14歳という、史上最年少でATPチャレンジャーのメインドローで勝利を収めた時だったと思います。多くのテニス関係者が、彼のことをものすごい才能の持ち主で、将来からなず出てくると言っていたことを覚えています。

その時の彼のチャレンジャーの試合の一コマがYouTubeにアップされ、当時、相当話題となりました。↓

www.youtube.com

 

あれから、4年弱、いよいよ彼はみんなの言っていたように「出て」きました。ランキングもいよいよ50を切るかということろまできています。今後、彼をテレビで見る機会は、とても多くなるでしょう。

 

今回、紹介するコラムは、www.tennis.com に、フェリックスの一回戦の勝利後、そしてチチパス戦の前日である3月8日に掲載されたSteve Tignor 氏のコラムです。フェリックス・オーガー・アリアシムのこれまでのプロとしての道のりが書かれていて、フェリックスを知るためにもってこいの教材となっています。

記事 → http://www.tennis.com/pro-game/2019/03/auger-aliassime-ticking-all-boxes-he-climbs-atp-ranks/80213/

 

フェリックス・オーガー・アリアシムはすべての基準を満たしながら、プロとしての階段を上がっている

(意訳)

水曜日、フェリックス・オーガー・アリアシムは、インディアン・ウェルズ・テニスガーデンの練習用コートを離れる時に、有名なテニスプレーヤー達がみんな行うことをした。セレブリティのように、ロープ沿いを歩きながら、ファンにサインしたり、ファンのセルフィ―に応じたりしたのだ。実際は、それほど多くのファンが彼を待っていたというわけではない。ナダルやセリーナの世界のようにファンが20層にも重なり合っているわけではなかった。しかも、そのうちの何人かは、彼がいったい誰なのか分かっていないようにも見えた。

それは、全然OKで、むしろ予期していたことだ。オーガー・アリアシムは18歳で、世界ランク58位。彼がこれまでにグランドスラムに出場したのは、昨年の全米オープンのたった1回のみ。そして、それも一回戦で負けた。ジュニアテニスのビデオを熱心に見るようなテニス狂ならともかく、平均的なアメリカ人のスポーツファンの口から彼の名前が出てくることはまずないだろう。

しかし、そんな日がやってくるのもそう遠くないはずだ。オーガー・アリアシムのこれまで道のりで、最も独特なところは、彼のテニス選手としてのデベロップメントがどんなに入念に、計画的に行われれてきたかというところだ。彼は14歳でインターネットで旋風を巻き起こし、16歳で全米オープンジュニアで優勝し、18歳の現在では、同じくカナダ出身のデニス・シャポバロフと共に、世界ランク100位以内に入っているたった2人のティーンエイジャーの内の一人になった。2週間前、オーガー・アリアシムは、クレーコートには馴染みの薄いカナダの出身であるにもかかわらず、ATP500 のクレーコートトーナメントであるリオ・オープンで決勝まで行った。

しかしながら、”FAA(フェリックス・オーガー・アリアシムのイニシャル)"は、速すぎるペースで駆け上がっているわけではないし、また、早すぎる段階で驚くような結果を出してきたわけでもない。彼は、必要な過程を省いて「近道」は全くしていない。彼のランキングや名声は、派手な、繰り返すことが難しいような、そんな結果に頼ってはいない。2年前に、シャポバロフがモントリオールナダルを破ったことで、まだ、準備ができてない状態で、スターダムにのし上がった時とは異なり、オーガー・アリアシムは一歩ずつ、必要なすべてのチェック項目をチェックしながら着々と階段を登っているように見える。

2016年、ジュニア・グランドスラムチャンピオンになった。2017年と2018年、彼は、他の名前の全く知られていないルーキーのように、プロツアーを回り、9つのチャレンジャーとフューチャーズのタイトルを取った。先月のクレーコートで行われたデビスカップでは、2-2の状態から彼が最後のシングルスで勝ち、カナダに勝利をもたらした。そして、その後の3週間で3つのトーナメントに出場するという厳しいスケジュールだった南米ツアーは、まるで、彼が少年期から青年期へ変化する儀式のようにも見えた。彼が、ファビオ・フォニーニや パブロ・クエバスなどを破ってリオデジャネイロの決勝に進出を決めた時、私は、彼は次のサンパウロでのトーナメントの出場を取り消すと思っていた。しかし、彼は、プレーし続けて、そして、勝ち続けた。.

そんなクレーコートでの連戦後、彼はインディアン・ウェルズのハードコートに戻ってきた。そして、ハードコートでプレーすることをとても楽しんでいるように見える。木曜日の彼のゲームは、鋭く光ったナイフの刃のようにシャープだった。ゲートから颯爽と出てきて、Cam Norrie 相手に初めの3ゲームを連取するのにかかった時間はわずか8分だった。彼は、エースを打ち込み、フェアハンドウィナーを決め、繊細なタッチでハーフボレーをした後、後方にジャンプしながらオーバーヘッドを決めた。

しかし、アカプルコで準決勝までいったNorrieは厄介な相手だ。そのため、私は、Norrieがオーガー・アリアシムを徐々に疲れ果てさせるのでないかと思っていた。そして、実際、Norrieは、第1セット、2-4から、そして、第2セットも2-3からブレークするチャンスがあった。ここで、ブレークすれば、この試合は、まだ分からない。しかし、オーガー・アリアシムは、冷静さを失うことなく、素晴らしいサーブを打ち込みこんでこの危機を逃れたのだ。6-3、6-2、63分で勝利した試合で、”FAA”は80%のファーストサーブを入れ、Norrieの8つのウィナーに対して、20のウィナーを放ち、3つあったブレークポイントの全てをものにした。

「彼は我々の目の前で成長しているんだ」テニスチャンネルのブレット・ハーバーはそういった。それに賛同しないわけにはいかない。

たとえ、オーガー・アリアシムが今日の試合に勝たなくても、彼の素晴らしいテクニックや、彼のたとえ上手くいっていない時での落ち着いた態度に、将来性を感じる。彼の模範のようなサービスモーションは、彼の下半身のパワーを十分に生かすことができる。彼の両手打ちバックハンドは、体を完全に回転させ、伸ばすことで、体を効果的に使っている。さらには、彼の最大の武器である、あの「恐怖」のフォアハンド。ネットクリアランスと前方へ向かっていくパワーのバランスが理想的である。”FAA"のストロークは風変りだったり、型破りだったりするところが全くない。そして、彼は、それらを使うときに「やりすぎること」はしない。そして、彼のコートでの態度はというと、どんな時でもポーカーフェイスで、冷静を保っていて、自分からチャンスを潰してしまうような態度をとる場面を私はまだ見たことがない。これが、この18歳の驚くべきところだ。

オーガー・アリアシムの次のチャレンジは、ステファノス・チチパス。我々テニス狂たちはこの試合について、もう何も言うことはない。その他の人にとっても、”FAA”というイニシャルはすぐに知られてくるはずだ。そして、インディアン・ウェルズでのロープ沿いの人だかりもすぐに20層ほどになるだろう。

「僕は有名かって? まだ有名じゃないと思うよ。」オーガー・アリアシムは昨年のインディアン・ウェルズで笑いながらそう答えた。「そのうちね。。。多分」

今年のインディアンウェルズでは、もう「多分」ではないだろう。

 

昨日のチチパスとの試合で、フェリックスの最大のすばらしさは、彼の勝負強さであると改めて感じました。重要なポイントに本当に強いんですよね。あたなの周りにもいませんか? ブレークポイントでは、なぜか必ずファーストサーブが入るプレーヤー。彼はそんななんだか言葉では説明できない、得体の知れない強さを持ったプレーヤーです。だからとても怖いんですよ。

さてフェリックスの次の相手は、西岡良仁選手。実はこの2人、2015年7月の、フェリックスがセンセーションを引き起こしたあのチャレンジャーの大会(2015 Challenger Banque Nationale de Granby)の準々決勝で対戦しています。その時は、当時すでに世界ランク143位であった西岡良仁選手が3セットの末、勝利しました。今回はどうのような結果になるでしょうか。日本人としては特に楽しみなカードです。ちなみに2015年の同じ大会の女子部門(ITFサーキット)のほうには、当時世界ランク159位であった大坂なおみ選手が出場していました。あれから、4年。待ちに待ったニュージェネレーションの時代の到来がついに現実になってきたようです。