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ダビド・フェレールのインタビュー:私のキャリア、引退、そして成長

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5月5日から始まったマドリッド・オープンを最後に19年にも及ぶ現役生活にピリオドを打つダビド・フェレール。 ATPtour.comでは、4月のバルセロナ・オープンの直前、フェレールに独占インタビューを行いました。4月22日に掲載されたこの記事では、フェレールがこれまでの彼のテニスキャリアについて自身の言葉で振り返っています。

www.atptour.com

私の尊敬する選手の一人であるフェレールのインタビューの記事を今回は訳してみました。

 

ダビド・フェレール、キャリア、引退、人間的な成長を振り返る

 

いよいよその時が来ました。ダビド・フェレールは、5月のマドリッド・オープンを最後に引退します。

27のATPツアータイトル、2013年の全仏オープン勝戦、ATP世界ランク最高3位などの輝かしい記録を残して、スペインのテニスの史上、最も成功しテニスプレーヤーの一人として、フェレールは引退します。彼が残してくれた、様々な思い出を我々はこの後もずっと忘れることはないでしょう。

バルセロナ・オープンの初戦を前に、フェレールが、彼の20年近くに及ぶプロテニスのキャリアについて ATPTour.comに話をしてくれました。

 

ここ最近の試合で、あなたが「バンダナをコートに置いていく」というような、印象的な行為をするのを、我々は何度か見ました。

自分をかっこよく見せるためにしているのではありません。オークランドの試合から始めました。トーナメントでの最後の試合を終えた時に、そのトーナメントでの最後の思い出として、そこで流した汗の最後の一滴まで、そこに残していくというような感じを表現したかったのです。

 

あなたのテニスキャリアの終わりは、すぐそこに近づいています。

そうですね。そのことに関してはとてもいい感じがしています。もうすぐプレーするのを止めること、今年が私の最後の年になることを、自分自身で上手く受け入れられてきていると思います。最後のトーナメントを終えた時、どんな気持ちになるかと考えると、予想が出来なくて、少し怖い気もしますが。だけど、私の目標は、自分が幸せだと感じること。まだ勝ちたいという気持ちも十分あるし、なにより、私に最も大きな愛を与えてくれたトーナメントで最後にプレーすることができる、それが私が最もうれしく思っていることです。そこで、これまでのキャリアに感謝して、過去を振り返り、私が成し遂げたことを誇りに思うことができる。

 

こんなにみんなから愛されていると思っていましたか?

いえ、本当にこんな風になるとは思っていませんでした。だから、すごく驚きました。

例えば、僕の育った国とは、まったく異なった国である、オークランドで、ファンのみんなが、私の価値を認めてくれて、感謝してくれた。だから、これまでプレーしてきたそれぞれの場所で、たくさんの良い思い出を残していきたいと思ったのです。そんな思い出は、この先も私の心のなかにずっと残っていきます。ただのテニスプレーヤーとしてだけではなく、いろいろな面で。そして、ファンの人達も、そんな心に残る思い出を共有したいのではないかと思っています。

 

 それはあなたにとってタイトルを取ることよりも価値があることですか?

もちろん。私にとってはタイトルよりも断然価値があります。結局、最後に重要なのは、人としてどうあるか、だと思うのです。タイトルの思い出は、家のトロフィールームにトロフィーという形でありますが、私にとっては、トロフィーは、ただのトロフィー。それ以上のものではない。でも、私の経験したこと、テニス界の仲間やファンから私が受けた愛情は、これから私の記憶に一生とどまっていきます

 

テニスをプレーし始めた頃から、今日までの間、あなたは一人の人間として、どれほど成長したと思いますか?

そうですね、その長年の経験があって、今の私があります。テニスを通して、人間として少しずつ成長していけたこと。それが私がもっともうれしく思っていることです。20歳の頃の自分を振り返ってみて、今の自分と比べると、その2人はまったく異なった人物です。ツアーに参加し始めたころ、あの頃の子供であった自分を思い出すと、賛同できないところが多くあります。でも、それが人生というものです。テニスプレーヤーとして、人として失敗しながら、成長して、進化してきたのです。

 

あの頃の子供だった自分に言いたいことは?

まず、落ち着けと。他のいろんなことに興味をもって、そして、あなたの周りにいる人だけではなく、いろんな人の意見に耳を傾けてみなさいと。言いたいことはたくさんあります。もうちょっとリラックスして、今という時間を楽しめとか。私は、当時、自分に厳しく、自分からとても多くを要求していた。でも、そうしながらも、同時に今を楽しむことは可能なんだよ、と言いたい。

 

あなたは、テニスで親からのプレッシャーを感じたことはありますか?

僕は親にとても恵まれいたと思います。私は、いつもテニスというスポーツをリスペクトをしてきました。私の親は、人生において何が大切で、何が価値あることかを私に教えてくれました。それに対してとても感謝しています。私の父は私のロールモデルです。彼は、いつも重要なことは勝敗ではないと強調してきました。重要なのは、出来ることは何でもやって、ベストをつくして、そして楽しむことなんだと。負けると本当に苦しいけれど、テニスは所詮、スポーツなんだと教えてくれた。父は大切なことをよく理解していました。私の親は、その点うまくやったと思います。私自身は、親からのプレッシャーを感じたことは一度もありませんでした。

 

引退後は何をするか考えていますか?

まだ、あまり考えていません。大好きなテニスに関係することに何らかの形で関わっていくだろうとは思っていますが。私の人生は、これまで、旅ばかりでとても忙しかったので、まずは、しばらくの間、家族とゆっくり過ごそうと思っています。すこしスローダウンして。ゆっくり旅行でもして、もっとリラックスした状態で、世界を見てみたいです。家族と息子と時間を過ごすことを楽しみにしています。

他には、スキーにも行きたいと思っています。またコメンテーターの仕事もしてみたい。解説したことは一度もありませんが。私は自分がどのような解説するか見てみたいです。解説することで、私は他の人に教えながら、自分も何かを学ぶことができると思っています。また、私は、10~16歳くらいの子供にテニスを教えるのがとても好きです。これから未来のある子供達やティーンエイジャー達を助けたいと思っています。でも、まずは休養したいので、今年ではないですが、来年からは、そんなことをするのを楽しみしています。

 

 

あなたは、フェデラーナダルジョコビッチ、マリーが、あなたをより良いテニスプレーヤーにしたとよく言っていますが、本当にそう思っているのですか?

それは絶対にそうだと断言します。彼らは、とても高い目標を掲げてプレーしています。ラファは私にとってもお手本のような存在です。彼は私より若く、ツアーに参加したのは私より後でしたけど、彼から本当に多くのことを学びました。トーナメントに勝って、また次のトーナメントに勝つ。ローランギャロスで優勝して、次のクイーンズ・クラブ選手権でも優勝する。彼から、一つのトーナメントで勝ったことに満足せず、(高いレベルで)プレーし続けることを学びました。それが助けになり、私は、コンシスタントにプレーすることができ、世界ランク3位まで行きました。もし、彼らのようなプレーヤーを見ることがなければ、私は、ここまでのプレーヤーにはなれなかったと思っています。

 

でも、もし彼らと異なった時代にプレーしていれば、グランドスラムで勝てたかもしれませんよね?

それは、決して分からないことですよね。もし、彼らがいなければ、私は今のようなプレーヤーになっていなくて、だとしたら、彼らがいなくても、グランドスラムで勝てなかったかもしれないし。”もし”というような仮説を、考えてもキリがない。現実は、私は、グランドスラムで勝つことが出来なかったということなんです。自分でできるだけのことはすべてやりましたが。でも、だからと言って、グランドスラムで1勝することと引き換えに、グランドスラムで1勝したことのある選手と自分の立場を交換したいとは、全く思いません。グランドスラムで一度優勝したけど、マスターズの決勝戦には1~2回しか出たことがない選手もいます。私は、マスターズの決勝戦で7回戦いました。そして、私は、スペインのテニス史上でも、試合に勝った数は、トップ2~3位くらいだし、世界的に見ても12位ぐらいです。私のテニスのキャリアは素晴らしいもので、よくやったと自分でも思っています。

 

全仏オープンでのナダルとの決勝戦は?

あの試合は、少し異なります。あの試合で私は全くチャンスがありませんでした。誰の責任でもないけど、ただ、あの試合に対しての私のモチベーションはベストではなかったのです。少しストレスを感じながら、あの試合に臨みました。始めてのグランドスラムの決勝戦で、そう感じるのは当たり前だと思います。当然のことです。でも、あのような(重要な)場面で、我々は賢明な対応が出来なかったのです。私も私のチームもあの試合への上手いアプローチの仕方が分かっていなかった。あの時、我々は自分達の持っている知識の限りでできるだけのことはやりましたが。

 

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あなたのキャリアに最も影響を与えたプレーヤーは誰ですか?

フアン・カルロス・フェレーロ、カルロス・モヤ、アルベルト・コスタ、セルジ・ブルゲラです。彼らから多くのことを学びました。デ杯のキャプテンであるアレックス・コレチャもその一人です。その中でも特にフアン・カルロスは、私のことを本当に助けてくれました。彼は私の手本で、私に多くのアドバイスをしてくれました。彼はその時世界ランクNO1で、そこに私が新しくやってきた。我々はおなじコニュニティーの出身で、そうすることは容易ではなかったはずなのに、彼は、私を受け入れてくれて、アドバイスをしてくれた。そして、私たちはとても仲が良くなりました。本当にそのことに感謝しています。その関係は、現在の私とロベルト・バウティスタ・アグートの関係に似ていると思います。

フアン・カルロスから、若いプレーヤーを助けることを学びました。私たちは馬が合って、彼はバレンシアのトーナメントの時に彼と一緒に過ごす機会を私に与えてくれました。彼をとても尊敬していますし、深い友情を感じます。このことに関して、一つ後悔することがあるとしたら私のキャリアのある時期に、彼と一緒に練習するのを止めてしまった時期があったことでしょう。カルロスやセルジともそうでした。(それがなければ)彼らからもっと学ぶことが出来たと思っています。私のキャリアの中のある時期に、そうすることが難しい時期があったのは、残念なことです。

 

ツアーに何人の真の友達がいますか?

3、4人くらいですね。好きな仲間は多くいますが、友情を感じるのは、フアン・カルロス、フェリシアーノ・ロペス、マルク・ロペス。。。ラファも特別です。僕より若いけどロベルト・バウティスタ・アグートもね。

でもあんまり、こういう風に、個人的に名前をあげるのは好きではないです。

 

今までの対戦相手で最もタフな相手は誰ですか?

僕にとっては、ロジャー・フェデラーです。ペースを上手く変えてきて、本当にイライラさせられました。他の多くの選手と同じように、彼が私とプレーするときに多少焦った時もあったかもしれせんが、私は、結局、彼に勝つことが一度もできませんでした。

 

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ここまでの人生、時間が経つのが早かったですか?

幸せだったので、時間が経つのが早かったです。時が経つのが遅く感じる時は、自分の状況に不満があるときです。そんな時は、全てがスローになる。もし、好きではない仕事をしていれば、時間が過ぎるのはとても遅く感じると想像します。しかし、私は、私がしていることが大好きでした。私が幸せであったので、私が”仕事”をしていた時間は、とても早く過ぎ去っていきました。

 

マドリッド・オープンで、あなたのキャリアを終えようと決めた理由は何ですか?

マスターズ1000の大会ですし、フェリシアーノ・ロペスもいます。そして、マドリッドは、いつも私に良くしてくれました。そこの人達は、みんな、テニスが大好きだし、私もマドリッドは大好きな街です。祖国のマスターズ1000の大会で、ベストのプレーヤーが集まる中で、キャリアを終えることが出来る。私は、ベストのプレーヤーが集まるトーナメントでキャリアを終えたいと常に考えていました。

 

フェリシアーノ・ロペスがトーナメントディレクターであることについてどう思いますか?

すごくいいと思います。彼は私の友達なので、すごく贔屓目で見てしまいますが。彼はテニス界に必要な人間だと思います。彼は社交的だし、イメージもいいし、ツアーのことを良く知っているし、プレーヤーのことも理解できる。そういう意味では、彼はこの仕事に理想的な人物だと思っています。フェリシアーノほど適任な人はいないと思います。

 

あまたとマヌエル・サンタナとの関係は、どんな感じですか?

とても良好です。マヌエルはとても素晴らしい人です。彼と話をしていて、彼のジョークを聞いていると、人生のこの(後半の)ステージでも、彼がとても幸せなのが分かります。彼には活気があります。彼は、私のような、多くの若手プレーヤーを助けてきました。昔、私が負けた時、彼が電話をしてきてくれたことをよく覚えています。全く見返りを期待しないで、他人のことを気使ってくれる人なんて、あまりいませんよね。でも、マヌエルはそういう人です。彼がテニスに対して貢献してきたことをとてもリスペクトしています。彼はパイオニアです。彼がいたから、我々が今のような状況になることができて、それで私は今日、あなたと話しをすることが出来ているのです。

 

あなたは、息子さんに父親としてどのような思い出を残したいですか?

一緒に遊んだこと、一緒に何かをしたこと。私が彼のことを学びながら、私たちが一緒に時間を過ごしたこと。私は、彼の父親だから、友達にはなれないが、でも、何かあれば、私に聞いたりすることができるように、彼が私に対してオープンになれると思うような関係を作りたい。

 

あなたのキャリアでのトップ5の出来事を上げるとしたら?

(2013年の)全仏オープン準決勝で、ジョー=ウィルフリード・ツォンガを破ったこと。 (2012年の)パリ・マスターズ。。。

 

あの時は勝てると思っていましたか?

アンディ・マリーが負けた時、チャンスだと思いました。ジョコビッチ、ラファ、フェデラーが居なかったので。でも2012年は、私が、彼らにとても近づいていると感じていた時でもありました。私のキャリアの中でもベストな時期でした。

残りの3つは、バレンシア・オープンで勝ったとき。あとは、セビリアでのデ杯優勝と、バルセロナでデ杯に優勝したとき

 

引退後もテニスを観戦し続けますか?

もちろんです。私は、テニスが好きなので、今でもテニスをよく見ます。引退後テニスをしなくなって寂しいからとか、もう自分はインディアンウェルズやオーストラリアなどの場所でプレーすることができないからとか、そんな理由でテニスを見るわけではありません。テニスを見て、そして、何か発見し学ぶために見ているのです。見ることが好きだら、見る、そんなシンプルな理由でテニスを見ています。

 

試合で戦っているときのアドレナリン(興奮・緊張状態)が恋しくなりませんか?

試合でもうそんな状態を経験できないということが、私が最も寂しいと感じていることです。代わりのものを見つけることはとても難しいと思うけど、何か見つけようと思っています。サイクリングとか、何か、自分の中の野獣をちょっと落ち着かせるために。

 

フェレールは、今日のバウティスタ・アグート戦、6-4、4-6、6-4で見事に勝利しました。私もテレビで見ていましたが、いいショットやアンラッキーな時などでも時々笑みを浮かべるなど、いい感じでリラックスして、本当に今この瞬間を楽しんでいるなぁというのが、よくわかりました。いい意味で若いころのギラギラした様子はもうなく、ある意味、達観したような、そんな感じが見受けられました。

全てを出し切って、全てを納得して受け入れて、そして、自分の意志で止めることができるということは、とてもうらやましい限りです。潔く、すがすがしく、我がテニス人生に悔いなしといったところでしょうか。なにか、重要で、大切なものを止めなければいけないという時が私にも訪れた時、こんな風であったらいいなと思うような、理想的な形ですね。

 

さて、フェレールの次の相手は、No3シードのアレクサンダー・ズベレフです。

このまま、行くところまで行って、少しでも長い時間プレーしてほしいものです!