オール・アバウト・テニス

主に海外(特にアメリカ)で取り上げられているテニスに関する興味深いニュースをピックアップしてお届けします。

"ジャーニーマン" その1

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Michael Russell

 

まずは、ATPツアーのおさらいから

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https://tennis.jp/guide/systemより

グランドスラムはATPの管轄ではないので別格として、ATPツアーレベルというのは、ATPマスターズ1000、ATP500、ATP250のATPワールドツアーと呼ばれるトーナメントのことを指します。下位ツアーには、チャレンジャーがあり、その下にフューチャーズ(2018年まで)があります。

 

Journeyman(ジャーニーマン)という言葉を耳にしたことがありますか? 意味は " a journeyman is an athlete who is reliable but not outstanding”ということで、すなわち、「ジャーニーマンとは、まずまず成績を残しているが、ものすごくすばらしいトッププレーヤーではないアスリートのこと」を指します。他のプロチームスポーツでは、中堅どころとして、いくつもの異なったチームを渡り歩く選手のことを指しますが、テニスでは、ATPの下位ツアーである、チャレンジャーレベルのトーナメントで主にプレーしている、世界ランキング70~150位程度(この辺の定義はあいまいで、例えば50~150位という人もいます)のプレーヤーのことを指します。

先日のブログで下位ランクのプロテニスプレーヤーの経済的な苦境について少し触れました。200位以下のプレーヤーはほとんど賞金を稼いでいないこと。そのため、テニスをすることでは生計が成り立たないこと。

プロテニスプレーヤーとして、ちゃんと生活してをしていけるのは世界ランク100位程度までと一般的には言われています。そんなぎりぎりのラインにいる”ジャーニーマン”はどのように生活しているのでしょうか。

今日紹介する記事は、ジャーニーマンの代表格 マイケル・ラッセルへのインタビューを軸に書かれています。輝かしいジュニアの経歴を持ち、マイアミ大学で2年間プレーした後、1997年にプロに転向。シングルス自己最高ランキングは60位(2007年8月)。2015年に37歳で現役を引退するまで、ATPツアーレベルではシングルス、ダブルスともに優勝はないものの、ATPの下位ツアーであるチャレンジャーでは、シングルスで15のタイトルを取っています。

2013年8月にフォーブスに掲載されたこの記事。少し古いですが、基本的な仕組みは、現在とあまり変わってはいないのではないでしょうか。取材当時、世界ランク92位であったマイケル・ラッセル。ジャーニーマンとしてのリアルな現実が大変興味深い記事となっています。

世界ランク92位のプロテニスプレーヤーがどうやって、「まあまあ」の生活をしているのか

7月、マイケル・ラッセルは、エクアドルのマンタで行われたテニストーナメントで優勝した。そのトーナメントに出場するためだけに8628マイルを旅したのだ。この優勝は、今シーズンの彼のベストパフォーマンスの一つで、この勝利で5000ドルの賞金を受け取った。しかし、この一週間のトーナメントにかかった出費を差し引くと、ほとんど利益は残らない。

そんな奇妙なプロフェッショナル・テニスの世界にようこそ。

ラッセルは、現在、世界ランク92位である。彼は、テニス界でトップ100人の内の1人として、まあまあの生活を送ることができているが、かといって、スパースターのロジャー・フェデラーのように、エンドースメントで何億というようなお金が入ってくるわけではない。彼の生涯獲得賞金額は、これまでのプロ生活15年間で2.1ミリオンダラーであり、そう聞くと結構いい暮らしができているように思うかもしれないが、プロテニスツアーに参加するためは、大変お金がかかることを忘れてはいけない。ラッセルによると、昨シーズンの費用は、総額で75,000ドルかかったということだ。ツアーに参加するための旅行費用だけで、35,000ドルかかった。税金の額も大きい。ガット張替えの費用でさえも結構かかる。トーナメントによっては300ドルかかったこともあり、年間の費用は、それだけでも9000ドル。こんな風に費用が異常にかかるため、男子プロ、女子プロでも世界ランク100位以下のプレーヤー達は、プロツアーでやっていくことに大変苦労する。

フォーブスは、彼が、ロジャーズ・カップ(ATP1000)の予選に参加するために滞在しているモントリオールのホテルの部屋でラッセルに「プロテニスでプレーすることの経済的な現実」という名目で話を聞いた。昨シーズン、彼は、賞金で210,000ドルほど稼ぎ、スポンサーシップとエキシビションで、更に60,000ドルほど稼いだ。ちなみに、テニス界のゴールドスタンダード(同類の中で高い水準にあり、他の規範となるような存在)であるフェデラーの昨シーズンのスポンサー収益は、45ミリオンダラーであった。

ラケットテクノロジーの発達、より遅いサーフェスのコートの増加、前代未聞の高い運動能力のプレーヤー(例えばナダルのような)の出現などの理由で、テニスはより競争が激化し、より体を酷使するスポーツとなった。その分、他の選手に引けを取らないようするためには、コストもよりかかるようになった。そして、このトレンドは今後も続くだろう。「トップ4プレーヤーは、コーチだけじゃない。トレーナー、医者、ヒッティング・パートナーなど、4,5,6人ぐらいのチームメンバーに給料を払っているんだ。」とラッセルは言った。しかし、そんなにチームメンバーを雇うと、ほとんどのテニスプロは、破産してしまう。ほとんどのトーナメントで、ラッセルは自力でなんとかしなければならない。お得なホテルを見つけ、トーナメントに雇われたオンサイトのトレーナーを他のプレーヤーたちと分け合い、マイレージサービスや他の特典を駆使して旅行費用を削る。そうやってツアーを回る。

ラッセルは、今季、調子が良い。ニューポートのトーナメント(ATP250 )で準決勝、メンフィス(ATP250)では、準々決勝まで行った。ということは、今季はチャレンジャーやフューチャーズではなく、ATPツアーレベルのトーナメントでプレーできる。ATPツアーレベルで戦えることが、プロテニスプレーヤーにとっては経済的な成功のカギである。例えば、注目の若手パブロ・カレーニョ・ブスタは、今季ここまで、すでに71試合に勝利している。しかし、このうち66試合は、チャレンジャーとフューチャーズの試合だ。そのため、これまでの賞金総額は、120,000ドル。カレーニョ・ブスタが優勝したフューチャーズのいくつかの賞金はわずか1,300ドルであった。ということは、彼は優勝したにも関わらす、経済的には損失を被ったことになる。

下位ツアーについて、ラッセルは「チャレンジャーの初めのほうで負けると、もらえる賞金は、500ドルから1000ドルくらい。収支トントンにするには、最低でも準決勝までいかなければならない。多くのチャレンジャーのトーナメントでは、滞在費や交通費や食事などの費用を出してくれないので、参加費用として2000ドル~3000ドルほど必要だ。」と語った。

 

(長くなりましたのでその2に続きます。)