オール・アバウト・テニス

主に海外(特にアメリカ)で取り上げられているテニスに関する興味深いニュースをピックアップしてお届けします。

大坂なおみ 「謙虚」な姿勢で勝ち取った優勝

昨年の全米オープンに続き、全豪オープンでも優勝。同時にアジア勢としては初の世界ランキング1位となった大坂なおみ選手。日本ではもちろんでしょうが、彼女の生活の基盤であるアメリカでも、彼女はマスコミに大変大きく取り上げられています。今までにないタイプのチャンピオンとして、テニスだけでなく、そのにも言動にも注目が集まっています。彼女は今まさに「時の人」。彼女に関しての記事やニュースを毎日のように本当にたくさん目にしますが、多くの人が彼女に興味をもっていて、彼女のことを知りたくてたまらない様子です。そんな彼女に関するニュースや記事をこれから時々紹介していこうと思います。

今日紹介するのは、またもや、テニスマガジンのライターであるスティーブ・ティグナー氏の記事で、大阪選手の今回の全豪オープン優勝直後に寄稿されたものです。

 

以下がその記事の翻訳です。

 

NAOMI OSAKA SHOWS YOU DON’T HAVE TO TALK THE TALK TO WALK THE WALK

全豪オープン優勝の裏には彼女の「謙虚な姿勢」があった。”

 「クビトバとは、これが初めての対戦だけど、それが、グランドスラムの決勝戦でなんて、すばらしいことじゃない?」

大坂なおみは、全豪オープンの決勝戦でクビトバと対戦することについて聞かれたとき、そう答えた。そして、その決勝戦でクビトバを7-6(2)、5-7.6-4で破り、2度めのグランドスラムタイトル獲得を決めた後も、同じようなことを再び言った。

この言葉に聞き覚えがあるだろうか。大坂は去年の全米オープンで、彼女が子供のころから憧れていた、セリーナ・ウィリアムスと対決するときにも同じようなことを言った。そして、「セリーナと決勝戦でプレーしたくて、それですごく頑張れた」と語った。試合前に何かセレーナにメッセージはあるかと聞かれて、嬉しそうに「アイラブユー」と言った。

今大会のクビトバにはそこまで強い感情はなかったかもしれないが、それでも、大坂は、今回も、自分が子供の頃にテレビで見ていたプレーヤーと対戦することにワクワクしているように見えた。

「チャンピオンは傲慢である」このフレーズをよく耳にする。この意味は、おそらく、どんな分野でもそのトップに立つものは、自分が他人より優れていると信じなければいけないということだろう。テニス選手に関してよく耳にするのは、テニスというスポーツで成功するためにはプレーヤーは「自分勝手」でなければならないということだ。一人で戦うテニスというスポーツは選手のニーズが全てで、それを中心に世界が回る。

しかし、全米オープン、そして、今度は全豪オープンで、大坂はチャンピオンになるために自己中心的になる必要はないと実証した。彼女は「謙虚」な姿勢で、グランドスラムのタイトルを手にしたのだ。

日本で生まれた大坂は、試合の終わりにネットで対戦相手にお辞儀をする。土曜日も、クビトバに試合後ネットでお辞儀をした。表彰式でもみんなにお辞儀をしていた。コートでも、プラスチックの袋やペットボトルなどのごみを、自分でごみ箱に捨てる。そんな選手はめずらしい。ほとんどに選手はボールキッズにさせているから。また、彼女の言動は他の多くの選手とは全く異なることが多い。彼女の発する言葉は、なんだか、ぎこちなくて、少し滑稽で、とても正直だ。例えば、全米オープンのインタビューでも、彼女は、自分にほとんど友達がいないことを面白おかしく、正直にこう語った。「いや~、私は本当に1人ぐらいしか親しい友達がいなくて。その子の前では自分がさらけ出すことができるんだけど、、、でも時々その子に申し訳なく思うの。」

彼女の謙虚で時には自虐的にも聞こえる言動は、メディアで話題となり、そして、すぐに人々の間でも人気となった。彼女のそんな肩を張らない、シャイなところが、多くの人にとっては、魅力的で、新鮮だった。そして、意外かもしれないが、彼女の謙遜というか、自虐的というか、そういう思考パターンが、実はとても有効な戦術として、テニスの試合において彼女を助けているのだ。

全米オープンでは、セリーナへの憧れや好意を表したことで、セリーナは新人であるナオミに最高の舞台を奪われてしまっても、なおみをことを決して嫌いにはならなかっただろう。全豪オープンでも、クビトバを玉砕しなければならない敵とは考えずに、2度のウィンブルドンチャンピオンと試合ができる素晴らしい機会と考えたことで上手くいった。

多くの人は、ナオミの発言を弱気なものと受けとめ、そんな彼女が決勝という大きな舞台で上手くプレーできるはずがないと思ったかもしれない。しかし、謙虚で、あまり自分に期待しすぎない考え方が、最もプレッシャーのかかる瞬間に、彼女を助けているように見える。試合を支配しようと意気込まずに、自分より経験豊かで、(今までは)より有名な相手に、置いて行かれないように最高のプレーをしなければいけないと考えることで、変に自分にプレッシャーを掛けず、そのために多くのことが上手くいったようにみえるのだ。

準決勝のプリスコバ戦の後、大坂は次のように語った。「この試合はすごい接戦で、私たちのレベルはほとんど同じに見えたでしょう。でも、私は、彼女より劣っているところがあるから、自分をずっと奮い立たせつづけないといけないと思ったの。チャンスにうまくいかなかったときでも、とにかく、ポジティブな姿勢を崩さないようにって。」

もちろん、大坂も含めて、だれも謙虚さだけでは、2度連続でグランドスラムのタイトルを取ることも、21歳で世界ランキング1位になることも出来ない。謙虚な発言のため表面からは分かりにくいが、大坂には、こころの奥深くに本能的な強い闘争心がある。セリーナと同じように、大坂が、最初にコートにたった理由は、姉がしていることをマネしたいというだけでなく、彼女より絶対上手くなりたいという強い思いがあったためだ。

彼女は昨年のニューヨークタイムズのインタビューでこう話している「(はじめのころは)ボールを打つのが大好きだという思いはなかったと思う。でも、姉に勝ちたいという思いがあったの。彼女はそんなこと考えてなかったと思うけど、私は、毎日、明日こそは姉に勝つぞって思っていた。」

そんな彼女の生まれながらの闘争心は、この全豪オープン中に今まで以上に発揮された。5-7、1-4ダウンからの返り咲きでシェイ・スーウェイに勝利した。ファーストセットを落としながらもアナスタシヤ・セバストワを逆転で破った。「同じくらいのレベル」であるはずのプリスコバよりも、最後は良いプレーをして勝利を収めた。クビトバ戦では、第2セットで3つのマッチポイントを握るもそのセットを失い、精神的にも極限になる寸前でなんとか立て直して、最後には勝った。何度も何度も、もうダメかと思われた状況で、彼女は踏みとどまったのだ。

大坂は、クビトバ戦で第2セット目を失った後、どうやって気持ちを切り替えたのかを聞かれて、こう答えた。「グランドスラムの決勝戦でプレーするのは、まだ2度めの未熟者だし、しかも世界のトッププレイヤーが相手なんだから、そんなに簡単にいくはずないって言い聞かせたの。私のほうが彼女よりずっと上手いわけじゃないから、そんなに甘くはいかないって。こんな状況では、感情が高ぶってしまう人が多いと思うけど、それって人間として自然なことだし、仕方ないことだと思う。でも、私は、そんなことに無駄なエネルギーを使いたくない。だから、第3セット目は、感情を全てオフにしたの。」

結局は、全豪オープンで彼女が勝ち進んだ理由は、そこなんだろうと思った。起こってしまった出来事に対して感情的に反応することを避け、ボールを打つことにのみに専念した結果なのだと。パワーで有名なクビトバ相手でも、大坂はベースラインからのラリーを支配した。第2セットを失い、正気を失いかけた時でも、感情をコントロールし、第3セット目では持ち直した。サーブ、ストローク、パワー、スピード。大坂が実力通りのプレーすれば、誰も彼女に適わない。だから彼女は世界ランキング1位になったのだ。

大坂はチャンピオンになるためには、他の余計なことは必要ない、だた、やるべきことをやればいいんだということを示してくれたのだ。

 

大坂選手は、「謙虚な」考え方で、感情をコントロールして、それで持ち前の才能を十分に発揮でき、勝利を導いたということですね。一般的には、アスリートは強気じゃないといけないと考えられていますけど、大坂選手は、逆の考え方で物事を良い方向に向けた。筆者の言うように、彼女の一見弱そうで、実は、めちゃくちゃ強いメンタルはここからきているのかもしれません。これからも、どんどん強くなっていくでしょうが、こういうところは変わらないでいてほしいと願うばかりです。他のアスリートとは一味違う大坂選手の活躍をこれからとても楽しみにしています。

 

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