オール・アバウト・テニス

主に海外(特にアメリカ)で取り上げられているテニスに関する興味深いニュースをピックアップしてお届けします。

全豪オープンを振り返る! 最も印象に残ったこと、第1位 アンディ・マレー

アンディ・マレーの引退表明

(以下の文はマレーが1回戦で負けた直後に書いたのもです。)

 

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マレーが今季限りで引退するつもりというニュースを聞いたのは全豪オープンの直前。

「2019年のシーズンで、テニスを止めるつもりだ。ウィンブルドンには出たいけどそれもわからない。この全豪オープンが現役最後の試合になるかもしれない。」

全豪オープンに出ることは知っていたので、腰のケガは順調に回復しているんだと思っていた私は、とても驚きました。

その後、マレーの会見の様子を改めて動画で見て、やっと少しですが、彼が引退に至った経緯が理解できました。印象的だったのは、彼は「pain (痛み)」という言葉を何度も繰り返したこと。ずっと昔から悩んでいた腰痛(股関節痛)が、悪化して、ここ20ヶ月間は、痛みのため、靴下や靴を履くことでさえ苦労するほどとなり、日常生活もままならなくなってしまったとのこと。「(改善のために)できることはなんでもやった。すべてやった。でも、どうしても痛みは改善しなかった。もう僕の右腰はボロボロなんだ。」と話すマレーからは、彼がこの問題に対して感じている絶望感がひしひしと感じられて、とても心が痛みました。

テニスでプロになるような人は、本当に小さい頃からテニスを始めて、まさに、幼年期、少年期、青年期と全て他のことを犠牲にしてテニスにかけてきた人たちばかりでしょう。もちろん彼もその一人。ずっと打ち込んできた大好きなテニスを止めなければいけない。自分はもっと続けたいのに、怪我のせいで、痛みのせいで、そんな不本意な理由で。なんとか前のようにプレーしたいと本当に頑張ってきた。でももうどうしても自分が思い描くようなテニスをすることが無理なんだという現実を突き付けられて、大げさではなく、マレーは、彼の一部が死んでしまったような深い苦しみを感じたのではないでしょうか。会見でのマレーは40代に近づいたアスリートが「体力の限界を感じて。。。」と言って引退するときのような、寂しいけれど、悲しいけれど、でも清々しい感じは全くなく、泣きながら、うつむき加減で、弱々しく言葉を発する彼からは、本当に彼が抱える深い苦悩と悲壮感だけがとても強く伝わってきました。これだけの成功を収めたにもかかわらず、心ざし半ばで夢を絶たれた少年のように話すマレー。不謹慎ですが、テニスのスーパースターというよりは、近所の悩める高校生というような感じで、私は彼に親近感がわきました。

 

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ビッグ4と呼ばれる中で、いつも4番手だったマレー。コートで人一倍、感情的に見える彼には、さまざまな葛藤や苦悩が付きまとったことでしょう。間違いなくトップ選手で、ほとんどの人が届かないすごい高いところにいるのだけれど、目の前にどうしても乗り越えられないもっと高い壁がいつもあったマレー。だからか、彼は、その分、少し繊細で感情豊かで人の気持ちがわかる優しい人にみえました。

フェデラーウィンブルドンの決勝で負けた時の涙のスピーチ。オリンピックで金メダルを取った時の誇らしそうな顔。USオープンでついに初めてのメジャーのタイトルを取った時の安堵した表情。そして、とうとう念願のウィンブルドンのタイトルを取った時の本当に幸せそうな顔。これらマレーの達成した偉業を、ファンは忘れることはないでしょう。しかし、私にとっての彼の一番の思い出は、おそらく、彼が時折コート上でみせる感情的な態度です。すごくネガティブなったり、怒ったり、怒鳴ったり。それから負けだすとなんとなく調子が悪そうな様子をみせるのに、しばらくすると何もなかったのような、あれは演技だったのか、というような素晴らしい動きをして、ウィナーを連発したり。マレーを良く知らない人がこう聞くとなんだコイツ最悪じゃないかと思うかもしれません。ただそんなマレーの態度を私が不快に感じなかった理由は、基本的に彼のネガティブな態度や言葉は、対戦相手を含め、他人を傷つけるためのものではなく、彼のいら立ちや怒りの矛先は常に彼自身に対して向けられていたというところでしょう。思うようにうまくプレーできないことにいらいらして叫んだり、自分のチームに八つ当たりしたり。そんな人間臭いところが私にとってはマレーの最大の魅力でした。

今回、最後まで引退すると歯切れ良くハッキリ言わなかったマレー。言葉を探しながら、腰が痛くてもうこんな状態のなかではプレーするのは無理だ。痛すぎて、テニスをプレーすることが楽しくなくなってきた。だからテニスをすることを「ストップする」とだけ言いました。そう言いながらも、「でももっと大きな手術を受けたら、ひょっとしたら、まだ、プロレベルでプレーできる可能性も少しはあるかもしれない。実際、そうしたアスリートも実在するし。でも、たぶん、その大きな手術をしても、日常生活の質の向上は期待できるだろうけど、たぶんプロレベルで活躍するのは、もう無理なんだろうなぁ。」なんてことをボソボソとまるで自分に言い聞かせるように話していたマレー。まだ、彼自身がこの現実を完全には受け入れることができてないんだということが良くわかった会見でした。

その後、全豪オープンの一回戦でバウティスタ・アグートに5セットの死闘の末負けてしまったマレー。これが現役最後の試合になっても悪くないな、なんて言いながら、でもひょっとして手術して戻ってくるかもとも。まだまだ心が揺れてる様子。このまま引退か、手術して少ない望みにかけるか、どちらにせよ、自分がどうしたいか心の整理ができるまでには少し時間が必要でしょう。

幸か不幸か今回一回戦で負けてしまった全豪オープン。私は、マレーがここで体を酷使することを避けることができたおかげで、なんとなく、ウィンブルドンの出場の可能性が上がったのではないかと思わずにはいられません。7月初めのウィンブルドンまで、約6か月。マレーのウィンブルドン出場を願うばかりです。その舞台でマレーがファンにきちんとお別れができるように。寂しいけれど、悲しいけれど、でもどこか清々しい気持ちで。

ウィンブルドンでもう一度プレー出来ることを、ファンとして祈っています。

 

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これは、マレーが一回戦で負けた直後に書いたのですが、ここにきて急展開

マレーが手術を受けた。

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andymurray

I underwent a hip resurfacing surgery in London yesterday morning...feeling a bit battered and bruised just now but hopefully that will be the end of my hip pain 😀 I now have a metal hip as you can see in the 2nd photo 👉👉 and I look like I've got a bit of a gut in photo 1😂

 

マレーが、生活の質の向上のためと、現役復帰のわずかな望みをかけて、手術を受けたということです。火曜日に発表されました。”hip resurfacing surgery”と呼ばれるこの手術、金属の人工関節を挿入する手術のようです。

ということで、マレーの今後はどうなるんでしょうか。これで完全復帰できれば一番いいんでしょうが。ウィンブルドンは出場できるんでしょうか。ESPNの専門家は、ウインブルドンでプレーするには、時間的にちょっと厳しいのではないかと言っていましたが。とにかく、マレー、ガンバレー。